PYRENOID GUIDE はじめてのピレノイド

ピレノイドとは?

ピレノイドは、多くの藻類や一部のツノゴケ類の葉緑体にある、CO₂固定酵素Rubisco(ルビスコ)が集まった構造です。CO₂濃縮機構の中心として、光合成による炭素固定を支えます。[1]

総説の図1B。クラミドモナスのピレノイドの透過型電子顕微鏡像。MはRubiscoが集まるマトリックス、Stは周囲のデンプン鞘、Ptはピレノイドチューブ。
電子顕微鏡で見たピレノイド山野(2025)図1Bを部分転載。総説PDF · CC BY 4.0。写真を拡大 ↗

01 — STRUCTURE

ピレノイドの構造

緑藻のクラミドモナスを例に見てみましょう。上の電子顕微鏡写真では、Rubiscoが集まる中心部、その周囲のデンプン、内部を通る細い管を見分けることができます。模式図とあわせて、3つの部分を紹介します。[1]

マトリックス

Rubiscoが高密度に集まる中心部です。届けられたCO₂を有機物に取り込む反応が進みます。

デンプン鞘(さや)

中心部を囲む、板状のデンプンです。CO₂が外へ漏れにくい環境をつくり、周辺タンパク質の配置も支えます。

ピレノイドチューブ

光合成の反応が進むチラコイド膜につながる、細い膜の管です。内部でCO₂を生成し、マトリックスへ届けます。

総説の図1C。青いRubiscoを灰色のEPYC1がつなぎ、黄色のデンプン鞘と緑のチューブが周囲と内部に配置されたクラミドモナスのピレノイドの分子模式図。
分子の配置を示す模式図山野(2025)図1Cを部分転載。He et al.(2023)をもとに作図。CC BY 4.0。図を拡大 ↗

模式図では、青がRubisco、灰色のひもがEPYC1、黄色がデンプン鞘、緑がチューブです。赤い点はCO₂ではなく、Rubiscoに結合する部分を表しています。ここで紹介した構造はクラミドモナスの例で、藻類によって形や構成が異なります。

02 — FUNCTION

なぜCO₂を集めるの?

RubiscoはCO₂が少ないと十分に働けず、酸素とも反応してしまいます。水中ではCO₂が広がるのも遅いため、そのままでは炭素が不足しがちです。そこで多くの藻類は、Rubiscoの近くにCO₂を集めるCO₂濃縮機構(CCM)を使います。[1]

クラミドモナスは、環境に応じてCO₂と重炭酸イオン(HCO₃⁻)の取り込み方を変えます。重炭酸イオンを取り込む場合の流れは、次のように整理できます。

  1. 01炭素を取り込む

    輸送体がHCO₃⁻を運ぶ

  2. 02CO₂へ変える

    チューブ内で酵素CAH3が働く

  3. 03Rubiscoに届ける

    マトリックスで炭素を固定

周囲へ漏れたCO₂の回収には、LCIBなどのタンパク質が関わります。取り込む・運ぶ・変換する・漏れを回収する仕組みが協調して、ピレノイドへ炭素を供給しているのです。

炭素を集めるには、エネルギーも必要

CCMを動かすにはエネルギーが必要です。葉緑体で光を利用する反応と、ミトコンドリアの呼吸が連携して、炭素の取り込みやCO₂の供給を支えます。細胞全体の働きが、ピレノイドでの炭素固定につながっています。[1]

03 — PHASE SEPARATION

膜がなくても、
分子が集まる。

クラミドモナスでは、RubiscoがEPYC1というタンパク質にゆるく結び付けられ、液滴のような集まりをつくります。分子が濃く集まる領域と、薄く分散した領域に分かれる現象を相分離と呼びます。[1][6]

この集まりは固定された固体ではなく、分子が出入りできる動的な構造です。細胞分裂に伴って形を変え、次の細胞へ受け継がれます。その過程を支える仕組みには、まだ分かっていない点もあります。

液体のように振る舞うのは、主にRubiscoの集まるマトリックスです。ピレノイド全体を包む膜はありませんが、内部には膜からできたチューブがあります。[1]

相分離と生命の反応場を探る研究へ

04 — EVOLUTION & APPLICATION

違う材料で、似た働きを。

系統の離れた藻類にも、Rubiscoの近くへCO₂を集める仕組みがあります。たとえばクラミドモナスはデンプン鞘を使いますが、珪藻の一部にはタンパク質の殻を使うものがあります。Rubiscoを集めるタンパク質も、藻類によって異なります。

別々の系統が似た働きを獲得することを収斂進化と呼びます。総説では、CO₂や酸素の量が変化してきた地球環境と結び付けて、炭素を集める仕組みの進化を考察しています。いつ、どのように獲得・喪失されたのかには、未解明の点も残っています。[1]

作物の光合成にも応用できる?

2025年の総説では、シロイヌナズナの葉緑体で、Rubiscoの集まりや周囲のデンプン、内部へ伸びる膜構造の一部を再現した研究が紹介されています。十分に働くCCMをつくるには、炭素輸送やエネルギー供給との統合など、課題が残ります。構造をつくることと、仕組み全体を機能させることの両方が研究されています。[1]

05 — QUESTIONS

よくある疑問

すべての植物にあるのですか?

すべての植物にあるわけではありません。多くの藻類に見られますが、陸上植物では一部のツノゴケ類に限られます。藻類の中でも、ピレノイドを持たないものがいます。[1]

ピレノイドとCCMは同じもの?

ピレノイドはRubiscoが集まる構造です。CCMは、炭素の取り込み・輸送・CO₂の供給や回収を含む仕組み全体を指します。ピレノイドは、その中心で炭素を固定する場です。[1]

ピレノイドがあれば、CO₂は集まる?

Rubiscoが集まるだけでは、十分なCCMにはなりません。炭素を運ぶタンパク質、CO₂をつくる酵素、外へ漏れにくくする構造、エネルギー供給などが協調して働く必要があります。[1]

06 — OUR RESEARCH

山野グループの研究から

炭素輸送とデンプン鞘の研究は、総説でも紹介しています。総説刊行後に得られた2026年の成果も、あわせて紹介します。

PNAS 2015

炭素を、葉緑体へ運ぶ。

細胞膜のHLA3と葉緑体包膜のLCIAが協調し、重炭酸イオンの取り込みを支えることを示しました。[4]

論文を読む

PLANT PHYSIOLOGY 2020

デンプン鞘の役割を知る。

周囲のデンプン鞘が、LCIBの適切な配置とCO₂濃縮機構の働きに重要であることを明らかにしました。[5]

論文を読む

総説のその後 2026

濃縮機構に、ブレーキを。

2025年の総説では未同定とされた、CCMを抑える側の因子。2026年に、高CO₂条件で関連遺伝子の発現を抑える核内タンパク質CBP1を発見しました。[7]

大学の研究紹介を読む

REFERENCES

もとになった総説と関連文献

基本的な解説と図は、文献1の2025年の総説に基づいています。2026年の成果は文献7を参照しています。

  1. 山野 隆志(2025)地球規模の炭素循環を担う藻類ピレノイド ~構造・機能・収斂進化の最前線~。Algal Science and Technology 18, 13–25. 総説PDF ↗ · 掲載ページ ↗
  2. 山野 隆志(2023)相分離するCO₂濃縮オルガネラとしての緑藻ピレノイドの理解。Plant Morphology 35, 3–8. 総説を読む ↗
  3. Engel et al.(2015)Native architecture of the Chlamydomonas chloroplast revealed by in situ cryo-electron tomography. eLife 4, e04889. 構造の原著論文 ↗
  4. Yamano et al.(2015)Characterization of cooperative bicarbonate uptake into chloroplast stroma in the green alga Chlamydomonas reinhardtii. PNAS 112, 7315–7320. 炭素輸送の原著論文 ↗
  5. Toyokawa, Yamano & Fukuzawa(2020)Pyrenoid Starch Sheath Is Required for LCIB Localization and the CO₂-Concentrating Mechanism in Green Algae. Plant Physiology 182, 1883–1893. デンプン鞘の原著論文 ↗
  6. Wunder et al.(2018)The phase separation underlying the pyrenoid-based microalgal Rubisco supercharger. Nature Communications 9, 5076. 相分離の原著論文 ↗
  7. Shimamura et al.(2026)A nuclear CobW/WW-domain factor represses the CO₂-concentrating mechanism in the green alga Chlamydomonas reinhardtii. PNAS 123, e2518136123. CBP1の原著論文 ↗
  8. He, Crans & Jonikas(2023)The pyrenoid: the eukaryotic CO₂-concentrating organelle. The Plant Cell 35, 3236–3259. 図1の作図参考文献 ↗