2023年
Yoshizawa S*, Azuma T, Kojima K, Inomura K, Hasegawa M, Nishimura Y, Kikuchi M, Armin G, Tsukamoto Y, Miyashita H, Ifuku K, Yamano T, Marchetti A, Fukuzawa H, Sudo Y, Kamikawa R
Light-driven proton pumps as a potential regulator for carbon fixation in marine diatoms
Microbes and Environments in press
山野 隆志*
「相分離するCO2濃縮オルガネラとしての緑藻ピレノイドの理解」
Plant Morphology in press
【要旨】ピレノイドは、藻類やツノゴケの葉緑体に存在する小器官であり、光学顕微鏡でも明確に観察することができる。ピレノイドは、CO2固定酵素RubisCOが集積することで形作られ、水圏における効率的なCO2固定反応において中心的な役割を担う。ピレノイド形成の分子メカニズムやCO2濃縮機構との関連については、モデル緑藻クラミドモナスを用いた研究で理解が大きく進んだ。クラミドモナスのピレノイドは、RubisCOと天然変性領域を持つ多価のRubisCO結合タンパク質との液液相分離により形成されるが、この考え方は、他の藻類種のピレノイド形成にも適用されると議論されている。本稿では、主にクラミドモナスのピレノイドの構造とCO2濃縮機構について、筆者の成果を含めた最新の研究例を紹介したい。その上で、ピレノイドの機能的な構成要素である、(1)ピレノイドマトリックス、(2)デンプン鞘とその周辺タンパク質、(3)ピレノイドチューブの構造が、CO2をRubisco周囲に濃縮する目的を達成するために、藻類が系統を超えて収斂進化により獲得した普遍的な構造であるという視座を提供したい。ピレノイドの構造、形成、制御の背後にある原理を理解することは、細胞生物学的に重要な非膜オルガネラの基本的な理解だけでなく、将来的に光合成能と収量を高めるために陸上植物にピレノイドを導入するための分子基盤を提供するだろう。
山野 隆志*, 平川 泰久, 松崎 令
特集「ピレノイド:植物の相分離オルガネラのカッティング・エッジ」 はじめに
Plant Morphology in press
【要旨】ピレノイドは、葉緑体内でCO2固定酵素RubisCOが集積することで形作られ、水圏における効率的なCO2固定反応において中心的な役割を担う。ピレノイド研究の歴史は古く、主に形態分類学の分野を中心に行われてきた。しかし近年、緑藻クラミドモナスのピレノイドが液液相分離する性質の発見や、その相分離に必要な分子の発見など、エポックメイキングな研究が相次ぎ、ピレノイド形成の分子メカニズムに関する研究が大きく進展している。このような背景を受け、日本植物学会第86回大会では、日本植物形態学会との共催のもとで、「ピレノイド:植物の相分離オルガネラのカッティング・エッジ」と題したシンポジウムを開催した。ピレノイドを持つ多様な藻類やツノゴケ類を用いてピレノイド研究を先導的に推し進めている研究者に講演していただき、ピレノイド研究の最前線を共有した。ピレノイドの形態の多様性や機能の普遍性を議論するとともに、今後の研究展望についても討論するシンポジウムとなった。
Shimamura D, Yamano T*, Niikawa Y, Donghui H, Fukuzawa H*
A pyrenoid-localized protein SAGA1 is necessary for Ca2+-binding protein CAS-dependent expression of nuclear genes encoding inorganic carbon transporters in Chlamydomonas reinhardtii
Photosynthesis Research 156(2):181-192 (2023) doi:10.1007/s11120-022-00996-7.
緑藻においてCO2固定の場となるピレノイドの形成に必須の因子であるSAGA1タンパク質の欠損が、Wang et al. 2016で同定したカルシウム結合タンパク質CASの葉緑体内局在異常や、重炭酸イオン輸送体の発現低下を引き起こすことを示しました。本研究の成果により、葉緑体内のピレノイドの形態維持がCO2とRubiscoの濃縮だけでなく、核内遺伝子発現の調節によるCCM制御においても重要であるという、新たな側面が明らかになりました。ピレノイドが葉緑体から核へのレトログレードシグナルの発信源であるという仮説をもとに、さらなる研究を進めています。
2022年
Gururaj M, Ohmura A, Ozawa M, Yamano T, Fukuzawa H, Matsuo T*
A potential EARLY FLOWERING 3 homolog in Chlamydomonas is involved in the red/violet and blue light signaling pathways for the degradation of RHYTHM OF CHLOROPLAST 15
PLoS Genetics 18(10):e1010449 (2022) doi:10.1371/journal.pgen.1010449.
名大 松尾研との共同研究成果です。
Tsuji Y*, Kinoshita A, Tsukahara M, Ishikawa T, Shinkawa H, Yamano T, Fukuzawa H*
A YAK1-type protein kinase, triacylglycerol accumulation regulator 1, in the green alga Chlamydomonas reinhardtii is a potential regulator of cell division and differentiation into gametes during photoautotrophic nitrogen deficiency
The Journal of General and Applied Microbiology in press doi: 10.2323/jgam.2022.08.001
DYRK型タンパク質リン酸化酵素の1つTAG accumulation regulator 1 (TAR1) の欠損変異体を複数の野生株からゲノム編集により作出して、その機能の見直しを進めました。
そして、CO2のみを炭素源とする光独立栄養条件かつ窒素欠乏条件において、TAR1欠損変異体は細胞分裂が阻害されることから、「細胞分裂を制御することで分化を促進する」というDYRKの広く知られた機能が緑藻でも保存されていることを示しました。
また、当研究室で最適化したCRISPR-Cas9を用いたゲノム編集技術についても詳細に記載しています。
Shinkawa H, Kajikawa M, Furuya T, Nishihama R, Tsukaya H, Kohchi T, Fukuzawa H*
Protein Kinase MpYAK1 is Involved in Meristematic Cell Proliferation, Reproductive Phase Change and Nutrient Signaling in the Liverwort Marchantia polymorpha
Plant Cell Physiology 63(8):1063-1077 (2022) doi:10.1093/pcp/pcac076.
タンパク質リン酸化酵素TAR1は、緑藻において窒素栄養欠乏応答を制御していますが、陸上植物を含めて広く真核生物に保存されています。
今回、苔類ゼニゴケのTAR1ホモログであるMpYAK1欠失株をゲノム編集により得ることで、MpYAK1がゼニゴケの栄養生殖や短日条件における有性生殖転換の抑制、窒素栄養欠乏応答に必要であることを明らかにしました。表紙に採用されました。
Mei NL, Komaki S, Takahashi H, Yamano T, Fukuzawa H, Hashimoto T*
Hyperosmotic stress-induced microtubule disassembly in Chlamydomonas reinhardtii
BMC Plant Biology 22(1):46 (2022) doi:10.1186/s12870-022-03439-6
奈良先端大 橋本研究室との共同研究。
Choi BY, Kim H, Shim D, Jang S, Yamaoka Y, Shin S, Yamano T, Kajikawa M, Jin E, Fukuzawa H*, Lee Y*
The Chlamydomonas bZIP transcription factor BLZ8 confers oxidative stress tolerance by inducing the carbon-concentrating mechanism
Plant Cell 34(2):910-926 (2022) doi:10.1093/plcell/koab293
韓国POSTECH Lee研究室との共同研究。クラミドモナスがもつbZIP転写因子の1つがCCMの駆動に関わる無機炭素輸送体や炭酸脱水酵素の発現を制御し、酸化ストレスに対して耐性を付与することを明らかにしました。
紹介記事
Microalgae concentrate CO2 to ameliorate oxidative stress
The Plant Cell: In a Nutshell
Yamano T*, Toyokawa C, Shimamura D, Matsuoka T, Fukuzawa H
CO2-dependent migration and relocation of LCIB, a pyrenoid-peripheral protein in Chlamydomonas reinhardtii
Plant Physiology 188(2):1081-1094 (2022) doi:10.1093/plphys/kiab528
LCIBの局在変化には、LCIBと結合するタンパク質LCICが必要であること、またその局在変化には光や光合成は必要なくCO2濃度が7 uMを境として切り替わることを発見しました。
CO2の濃度が変動する不均一な環境下で、藻類が葉緑体タンパク質の局在を細やかに変化させることで、光合成の能力を柔軟に維持する仕組みの一端を明らかにしました。
(uはマイクロ=10-6, 7 uM =7×10-6 mol L-1)
日経産業新聞で紹介されました。
藻類に光合成の能力保つ仕組み 京大解明
2021年

A plant-specific DYRK kinase DYRKP coordinates cell morphology in Marchantia polymorpha.
Journal of Plant Research 134(6):1265-1277 (2021) doi:10.1007%2Fs10265-021-01345-w


東大 塚谷研究室との共同研究。
Tsuji Y, Kusi-Appiah G, Kozai N, Fukuda Y, Yamano T, Fukuzawa H*
Characterization of a CO2-Concentrating Mechanism with Low Sodium Dependency in the Centric Diatom Chaetoceros gracilis.
Marine Biotechnology 23(3):456-462 (2021) doi:10.1007%2Fs10126-021-10037-4
海産珪藻は熱帯雨林に匹敵する生産力を持ち、その高い生産性はCO2濃縮機構(CCM)により支えられています。
モデル珪藻Phaeodactylumを用いたこれまでの研究では、海水中のナトリウム塩がCCMの駆動に必要であることが報告されていました。
これに対し本研究では、実用珪藻として知られるツノケイソウ(Chaetoceros gracilis)のCCMはナトリウム塩への依存度が低く、ナトリウム塩を含まない培地中でもCCMが駆動することを示しました。
本研究で明らかになった珪藻種間におけるナトリウム塩依存度の違いは、塩濃度が異なる様々な環境(外洋〜河口域)での珪藻の繁栄をもたらした要因の一つと推測されます。
2020年

Chlamydomonas reinhardtii tubulin-gene disruptants for efficient isolation of strains bearing tubulin mutations.
PLoS One 15, e0242694 (2020) doi:10.1371/journal.pone.0242694


中央大学 箕浦研究室との共同研究。
山野 隆志
「ピレノイド:光合成におけるCO2濃縮装置」
「相分離生物学の全貌」白木賢太郎 編 東京化学同人
ピレノイドの歴史と未解決問題を相分離の視点から解説しています。
Nitta N, Iino T, Isozaki A, Yamagishi M, Kitahama Y, Sakuma S, Suzuki Y, Tezuka H, Oikawa M, Arai F, Asai T, Deng D, Fukuzawa H, Hase M, Hasunuma T, Hayakawa T, Hiraki K, Hiramatsu K, Hoshino Y, Inaba M, Inoue Y, Ito T, Kajikawa M, Karakawa H, Kasai Y, Kato Y, Kobayashi H, Lei C, Matsusaka S, Mikami H, Nakagawa A, Numata K, Ota T, Sekiya T, Shiba K, Shirasaki Y, Suzuki N, Tanaka S, Ueno S, Watarai H, Yamano T, Yazawa M, Yonamine Y, Di Carlo D, Hosokawa Y, Uemura S, Sugimura T, Ozeki Y, Goda K*
Raman image-activated cell sorting
Nature Communications 11, 3452 (2020) doi:10.1038/s41467-020-17285-3
東大 合田研究室との共同研究。
Toyokawa C, Yamano T, Fukuzawa H*
Pyrenoid Starch Sheath Is Required for LCIB Localization and the CO2-Concentrating Mechanism in Green Algae.
Plant Physiology 182(4):1883-1893 (2020)
藻類のピレノイドは約200年も前に見いだされた葉緑体内の構造で、近年では液-液相分離する(サブ)オルガネラとしても注目を集めています。
ピレノイドの周りにはデンプン鞘と呼ばれる構造が形成されることが知られていましたが、その役割については不明でした。
本論文は分子遺伝学・細胞生物学的な手法によって、緑藻クラミドモナスのデンプン鞘がCO2濃縮機構の必須因子LCIBのピレノイド周囲への局在や、
CO2濃縮機構の維持に重要であることを明らかにしました。同誌の注目論文をピックアップするNews and Viewsでも紹介されました。
紹介記事
Mukherjee A
CO2 Concentration in Chlamydomonas reinhardtii: Effect of the Pyrenoid Starch Sheath.
Plant Physiology 182(4):1796-1797 (2020)
Kajikawa M, Fukuzawa H*
Algal Autophagy Is Necessary for the Regulation of Carbon Metabolism Under Nutrient Deficiency.
Frontiers in Plant Science 11:36 (2020) doi:10.3389/fpls.2020.00036
窒素欠乏条件下における藻類のオートファジーの役割についての総説。
Yamano T, Fukuzawa H*
Transformation of the Model Microalga Chlamydomonas reinhardtii Without Cell-Wall Removal.
Methods in Molecular Biology 2050:155-161 (2020) doi:10.1007/978-1-4939-9740-4_16
NEPA21を用いた迅速かつ高効率なクラミドモナス形質転換のプロトコル。
Jang S, Kong F, Lee J, Choi BY, Wang P, Gao P, Yamano T, Fukuzawa H, Kang BH, Lee Y*
CrABCA2 Facilitates Triacylglycerol Accumulation in Chlamydomonas reinhardtii under Nitrogen Starvation.
Molecules and Cells 43(1):48-57 (2020) doi:10.14348/molcells.2019.0262
韓国POSTECH Lee研究室との共同研究。
2019年

LIPID REMODELING REGULATOR 1 (LRL1) Is Differently Involved in the Phosphorus-depletion Response from PSR1 in Chlamydomonas reinhardtii.
Plant Journal 100(3):610-626 (2019) doi:10.1111/tpj.14473



東工大 太田研究室との共同研究。藻類はリンや窒素などの栄養欠乏時に細胞内にオイルを多量に蓄積することが広く知られています。この仕組みの解明が、藻類で様々な有用脂質を自在に生産するための大きな手掛かりになると考えられていました。 今回、種々の藻類で広く見られる栄養欠乏時のオイルの大量蓄積を制御する制御因子を我々の変異株ライブラリを用いて発見しました。明らかになった脂質蓄積の制御の機構や制御因子自体を、藻類で生産する有用脂質の種類や生産の時期を自在にコントロールするための仕組みづくりに活用することが期待されます。
Isozaki A, Mikami H, Hiramatsu K, Sakuma S, Kasai Y, Iino T, Yamano T, Yasumoto A, Oguchi Y, Suzuki N, Shirasaki Y, Endo T, Ito T, Hiraki K, Yamada M, Matsusaka S, Hayakawa T, Fukuzawa H, Yatomi Y, Arai F, Di Carlo D, Nakagawa A, Hoshino Y, Hosokawa Y, Uemura S, Sugimura T, Ozeki Y, Nitta N, Goda K*
A practical guide to intelligent image-activated cell sorting.
Nature Protocols 14(8):2370-2415 (2019) doi:10.1038/s41596-019-0183-1
東大 合田研との共同研究。2018年にCell誌で報告した「インテリジェント画像活性型細胞選抜法」の詳細なプロトコルです。表紙に採用されました。
山野 隆志、福澤 秀哉*
「緑藻クラミドモナスにおける光合成ターボエンジンの駆動と制御」
光合成研究 29(1):14-28 (2019)
緑藻クラミドモナスのCCMの総説。多くの藻類は、CO2欠乏ストレス環境においても光合成を維持するために、膜輸送体やチャネルを用いて積極的に細胞外から葉緑体に無機炭素を取り込み、固定酵素周辺にCO2を濃縮する仕組み「無機炭素濃縮機構(CCM)」を持ちます。
「光合成のターボエンジン」にも例えられるこの仕組みは、シアノバクテリア、緑藻、珪藻を用いた研究でその共通性と多様性が明らかになってきました。本総説では、無機炭素濃縮機構の駆動とその制御について、クラミドモナスを中心に最新の知見を紹介しています。
Yamaoka Y, Shin S, Choi BY, Kim H, Jang S, Kajikawa M, Yamano T, Kong F, Legeret B, Fukuzawa H, Li-Beisson Y, Lee Y*
The bZIP1 Transcription Factor Regulates Lipid Remodeling and Contributes to ER Stress Management in Chlamydomonas reinhardtii.
Plant Cell 31(5):1127-1140 (2019) doi:10.1105/tpc.18.00723
韓国POSTECH Lee研究室との共同研究。脂質蓄積制御に関わる新奇な因子を同定しました。
Owa M, Uchihashi T, Yanagisawa H, Yamano T, Iguchi H, Fukuzawa H, Wakabayashi K, Ando T, Kikkawa M*
Inner lumen proteins stabilize doublet microtubules in cilia and flagella.
Nature Communications 10(1):1143 (2019) doi:10.1038/s41467-019-09051-x
東大 吉川研究室との共同研究。繊毛・鞭毛の微小管内側に結合・補強するタンパク質について報告しました。
Shinkawa H, Kajikawa M, Nomura Y, Ogura M, Sawaragi Y, Yamano T, Nakagami H, Sugiyama N, Ishihama Y, Kanesaki Y, Yoshikawa H, Fukuzawa H*
Algal Protein Kinase, Triacylglycerol Accumulation Regulator1, Modulates Cell Viability and Gametogenesis in Carbon/Nitrogen Imbalanced Conditions.
Plant Cell Physiology 60(4):916-930 (2019) doi:10.1093/pcp/pcz010
DYRK型タンパク質リン酸化酵素TAR1は、栄養欠乏下での緑藻の脂質蓄積、クロロフィルと光合成関連タンパク質の分解の制御因子として2015年に私達が報告しました。
今回、TAR1が活性酸素種の発生や接合に必要であることがわかってきました。またリン酸化プロテオーム解析によりTAR1のリン酸標的タンパク質の候補因子として複数のタンパク質リン酸化酵素や窒素同化および炭素代謝に関わる酵素タンパク質を見出しました。
Kajikawa M, Yamauchi M, Shinkawa H, Tanaka M, Hatano K, Nishimura Y, Kato M, Fukuzawa H*
Isolation and characterization of Chlamydomonas autophagy-related mutants in nutrient-deficient conditions.
Plant Cell Physiology 60(1):126-138 (2019) doi:10.1093/pcp/pcy193
藻類におけるオートファジーの役割を評価するのに必要なオートファジー不全変異株atg8およびatg3の単離に成功しました。
変異体の表現型から、窒素や硫黄欠乏でオートファジーが藻類の細胞に蓄積したデンプンの維持に必要であること、リン酸欠乏では デンプンの蓄積自体に必要であることが示されました。
オートファジー不全株ではデンプンの代わりに油脂をより選択的に蓄積させることができる事から、バイオ燃料の生産に貢献する可能性が期待されます。
2018年

Intelligent Image-Activated Cell Sorting
Cell 175(1):266-276 (2018) doi:10.1016/j.cell.2018.08.028




東大、JST、理研他との共同研究。今回開発された技術「Intelligent Image-Activated Cell Sorter」により、従来は手作業でおこなっていた希少細胞(変異株)の選抜時間が約6,500倍に短縮され、偶然の幸運な発見(Serendipity)が可能になることを実証しました。 私たちは、環境中のCO2濃度を検知して葉緑体内部で移動するタンパク質を可視化し、その局在が異常になった変異株の単離に成功しました。今後は、得られた変異株を調べる事で、 光合成炭素固定を支えるCO2濃縮機構の制御や葉緑体内部でのタンパク質移行のメカニズムの解明が期待されます。
1章「生き物の由来 地球と生命の進化」(執筆:福澤 秀哉)
18章「体の設計図を読む ゲノム情報と進化」(執筆:山野 隆志)
「京大発!フロンティア生命科学」京都大学大学院生命科学研究科 編 講談社
梶川 昌孝、福澤 秀哉*
「実用珪藻の代謝工学による高付加価値油脂の生産ツノケイソウでのリシノール酸生産と細胞毒性の回避」
化学と生物 56(4):246-247 (2018)
2016年にSci Repに報告したツノケイソウにおけるリシノール酸生産についての和文総説です。
Yamano T, Toyokawa C, Fukuzawa H*
High-resolution suborganellar localization of Ca2+-binding protein CAS, a novel regulator of CO2-concentrating mechanism.
Protoplasma 255(4):1015-1022 (2018) doi:10.1007/s00709-018-1208-2
Wang et al. 2016 PNASで報告したCa2+結合タンパク質CASの細胞内局在を高解像度イメージング技術で明らかにしました。高CO2条件では葉緑体全体に拡散しているCASが、
CO2濃縮機構が誘導されるCO2欠乏条件ではピレノイドへと局在を変化させる様子を捉えました。同誌のEditorialでも紹介されました。
紹介記事
Nick P
Phase in space
Protoplasma 255(4):987-988 (2018)
2017年

Insights into Land Plant Evolution Garnered from the Marchantia polymorpha Genome.
Cell 171(2):287-304 (2017) doi:10.1016/j.cell.2017.09.030




福澤 秀哉、梶川 昌孝
「実用珪藻ツノケイソウによるリシノール酸の生産」
バイオイエンスとインダストリー 75(3):242-243 (2017)
2016年にSci Repに報告したツノケイソウにおけるリシノール酸生産についての和文総説です。
Kinoshita A, Niwa Y, Onai K, Yamano T, Fukuzawa H, Ishiura M, Matsuo T*
CSL encodes a leucine-rich-repeat protein implicated in red/violet light signaling to the circadian clock in Chlamydomonas.
PLOS Genetics 13(3):e1006645 (2017) doi:10.1371/journal.pgen.1006645
名大 松尾研究室との共同研究。
科学新聞で紹介されました。
緑藻で赤や紫の光情報を体内時計に伝える因子発見
Tsuji T, Kurokawa Y, Chiche J, Pouyssegur J, Sato H, Fukuzawa H, Nagao M, and Kambe T*
Dissecting the process of activation of cancer-promoting zinc-requiring ectoenzymes by zinc metalation mediated by ZnT transporters.
Journal of Biological Chemistry 292(6):2159-2173 (2017) doi:10.1074/jbc.M116.763946
2016年
福澤 秀哉
「CO2資源化の効率を左右するCO2濃縮機構とは」
化学と工業 69(11):960-962 (2016) [PDF](許可を受けて掲載しています)
Kajikawa M, Abe T, Ifuku K, Furutani K, Yan D, Okuda T, Ando A, Kishino S, Ogawa J, Fukuzawa H*
Production of ricinoleic acid-containing monoestolide triacylglycerides in an oleaginous diatom, Chaetoceros gracilis.
Scientific Reports 6:36809 (2016) doi:10.1038/srep36809
植物プランクトンである微細藻類は、光合成によって二酸化炭素を固定して生育する生物です。養殖業では珪藻が利用されていますが、もともと細胞が持っていなかった有用物質を作らせることは困難でした。
牡蠣などの養殖で利用される実用珪藻のツノケイソウで、医薬品や化成品原料となるリシノール酸の生産が今回成功したことで、微細藻類を用いた有用物質の生産が今後期待されます。
Wang L, Yamano T, Takane T, Niikawa Y, Toyokawa C, Ozawa S, Tokutsu R, Takahashi Y, Minagawa J, Kanesaki Y, Yoshikawa H, Fukuzawa H*
Chloroplast-mediated regulation of CO2-concentrating mechanism by Ca2+-binding protein CAS in the green alga Chlamydomonas reinhardtii.
Proc. Natl. Acad. Sci. USA 113(44):12586-12591 (2016) doi:10.1073/pnas.1606519113
藻類のカルシウム結合タンパク質CASが重炭酸イオン輸送体の発現を調節することでCO2濃縮機構を制御していることを明らかにしました。また、CASが光とCO2の濃度変化によって葉緑体の中で局在を変化させるといった新しい現象も発見しました。
陸上植物のCASタンパク質は気孔の閉鎖を調節することで、CO2の取り込みを制御しています。つまり、藻類のCO2濃縮と陸上植物のCO2ガス交換といった、
光合成維持のためのCO2の獲得システムが、CASという共通の因子で制御され、植物の進化の過程で保存されていることが分かってきました。
紹介記事
環境展望台
「京都大など、藻類のCO2濃縮機構の調節メカニズムを解明」
山野 隆志、福澤 秀哉
「微細藻の光合成を支える重炭酸イオン輸送 ー細胞膜と葉緑体包膜に局在する重炭酸イオン輸送体の発見ー」
化学と生物 54(7):459-460. (2016)
Yamano T, Fukuzawa H*
Indirect Immunofluorescence Assay in Chlamydomonas reinhardtii.
Bio-protocol: 6(13):e1864 (2016)
細胞内のタンパク質の局在を調べるときに使われる間接的免疫蛍光染色法の詳細なプロトコル。
Fukuzawa H, Yamano T, Ifuku K, Hayakawa Y
発明の名称「Method of transferring gene into algal cell involving utilizing multiple square-wave pulses in three steps」米国特許 番号9255276
2013年にJ Biosci Bioeng誌に報告した内容を含む形質転換技術の米国特許が成立しました。特許証はこちら。
2015年

Characterization of Cooperative Bicarbonate Uptake into Chloroplast Stroma in the Green Alga Chlamydomonas reinhardtii.
Proc. Natl. Acad. Sci. USA 112(23):7315-7320 (2015) doi:10.1073/pnas.1501659112




多くの藻類はCO2欠乏環境において、細胞外から細胞内に能動的に重炭酸イオンを取り込み、葉緑体内に濃縮することで光合成を維持することができます。 この藻類のCO2濃縮現象は1980年に発見されましたが、その輸送を担っている分子の詳細は長らく不明でした。本論文は、細胞膜と葉緑体包膜の2段階からなる重炭酸イオン輸送経路(HLA3/LCIAシステム)を明らかにしました。
紹介記事
環境展望台
「京都大、藻類の光合成を支えるCO2濃縮システムを解明」
福澤 秀哉
「二酸化炭素の固定と濃縮」
光合成のエネルギー変換と物質変換(杉浦 美羽他 編)pp.202-214 (2015)
Kajikawa M, Sawaragi Y, Shinkawa H, Yamano T, Ando A, Kato M, Hirono M, Sato N, Fukuzawa H*
Algal Dual-specificity Tyrosine-phosphorylation-regulated Kinase TAR1 Regulates Accumulation of Triacylglycerol in Nitrogen- or Sulfur-deficiency.
Plant Physiology 168(2):752-764 (2015) doi:10.1104/pp.15.00319
多くの藻類では硫黄や窒素欠乏条件下でトリアシルグリセロール(TAG)の蓄積が誘導されます。緑藻クラミドモナスのTAG蓄積異常変異体tar1-1の解析からその制御機構を担うリン酸化酵素遺伝子TAR1を同定しました。
TAR1は硫黄と窒素欠乏に共通して培地中の酢酸を元にしたTAGの蓄積を正に制御し、窒素欠乏下の光合成活性の抑制にも関与することが分かってきました。
福澤 秀哉、山野 隆志、伊福 健太郎、早川 靖彦
発明の名称「3段階方式矩形波多重パルスを利用した藻類細胞への遺伝子導入法」国内特許 第5721191号
2013年にJ Biosci Bioeng誌に報告した内容を含む形質転換技術の国内特許が成立しました。特許証はこちら。
Kajikawa M, Kinohira S, Ando A, Shimoyama M, Kato M, Fukuzawa H*
Accumulation of squalene in a microalga Chlamydomonas reinhardtii by genetic modification of squalene synthase and squalene epoxidase genes.
PLOS ONE 10(3):e0120446 (2015) doi:10.1371/journal.pone.0120446
緑藻クラミドモナスのステロール生合成経路の酵素遺伝子を改変することにより、化粧品基材、医薬品、栄養サプリメントなど様々な分野で利用可能な有用物質スクアレンを蓄積する株を創出しました。
2014年
Kihara H, Tanaka M, Yamato TK, Horibata A, Yamada A, Kita S, Ishizaki K, Kajikawa M, Fukuzawa H, Kohchi T, Akakabe Y, Matsui K*Arachidonic acid-dependent carbon-eight volatile synthesis from wounded liverwort (Marchantia polymorpha).
Phytochemistry 107:42-49 (2014) doi:10.1016/j.phytochem.2014.08.008


Wang L, Yamano T, Kajikawa M, Hirono M, Fukuzawa H*
"Isolation and characterization of novel high-CO2 requiring mutants of Chlamydomonas reinhardtii."
Photosynthesis Research 121(2-3):175-184 (2014) doi:10.1007/s11120-014-9983-x
DNAタギングにより得られた約20,000株の形質転換株について、高CO2条件と低CO2条件での生育を比較し、
LC条件でのみ生育が顕著に遅延する3株の高CO2要求性変異株を単離・解析しました。これらの変異株をさらに解析することで、クラミドモナスのCO2シグナル伝達の解明に向けて重要な知見を得ることができると考えています。
Yamano T, Asada A, Sato E, Fukuzawa H*
Isolation and characterization of mutants defective in the localization of LCIB, an essential factor for the carbon-concentrating mechanism in Chlamydomonas reinhardtii.
Photosynthesis Research 121(2-3):193-200 (2014) doi:10.1007/s11120-013-9963-6
クラミドモナスのCO2濃縮に必須なLCIBタンパク質は、光の明暗とCO2濃度の変化によって葉緑体内で局在を変化させることが分かっています(Yamano et al. 2010 Plant Cell Physiol.)。
この論文ではその局在変化のメカニズムに迫る足がかりとして、DNAタギングにより得られた約13,000株の形質転換株について1株ずつLCIB局在の蛍光観察を行い、12株のLCIB局在異常変異株(aberrant LCIB localization, abl株)を単離・解析しました。
その中には、CO2濃縮において重要な炭酸固定の場であるピレノイドの細胞内での位置や数が異常になった変異株が多く含まれており、LCIBとピレノイドの密接な関係が明らかになってきました。
2013年
Yamano T, Iguchi H, Fukuzawa H*Rapid transformation of Chlamydomonas reinhardtii without cell-wall removal.
Journal of Bioscience and Bioengineering 115:691-694 (2013) doi:10.1016/j.jbiosc.2012.12.020



3段階方式矩形波多重パルスによるエレクトロポレーション法を利用した、迅速かつ高効率のクラミドモナス形質転換系を開発しました。従来の方法では、クラミドモナスの細胞壁を溶解させる必要があり、この溶解酵素の単離・溶解反応などのステップに多くの時間を要していました。 今回報告した方法では、細胞壁を溶解する必要はなく、細胞とDNAを直接混ぜた後にエレクトロポレーションによる形質転換が可能となりました。これによって、大規模な遺伝子破壊株ライブラリーの作成などが格段に容易になり、PCRスクリーニングによって調べたい遺伝子の変異株を単離することが可能となりました。 この技術は世界中のクラミドモナス研究者の中で広く使われています。
福澤秀哉
「藻類のCO2濃縮作用と光合成維持の機構光合成研究-微細藻類の大量生産・事業化に向けた培養技術」
情報機構 pp.212-218 (2013)
2012年
福澤秀哉、山野隆志、梶川昌孝「緑藻クラミドモナスにおける無機炭素濃縮機構と脂質代謝」
光合成研究 22(3)

山野隆志、福澤秀哉
第4章 「微細藻類のCO2濃縮機構 -モデル緑藻におけるゲノム発現情報の利用-」微細藻類によるエネルギー生産と事業展望
シーエムシー出版
山野隆志、福澤秀哉
1-2-1-11「藻類の核酸(DNAとRNA)- 遺伝子の特徴と解析法」
藻類ハンドブック エヌ・ティー・エス出版
Fukuzawa H, Ogawa T, Kaplan A
"The Uptake of CO2 by Cyanobacteria and Microalgae.
In Photosynthesis "Plastid Biology, Energy Conversion and Carbon Assimilation" (Ed. by Eaton-rye J.J., Tripathy B. C., and Sharkey T.D.) Springer, Advances in Photosynthesis and Respiration 34: 625-650
2011年
Yamano T, Fujita A, Fukuzawa H*Photosynthetic characteristics of a multicellular green alga Volvox carteri in response to external CO2 levels possibly regulated by CCM1/CIA5 ortholog.
Photosynthesis Research 109:151-159


Matsuo M, Hachisu R, Tabata S, Fukuzawa H, Obokata J*
Transcriptome Analysis of Respiration-Responsive Genes in Chlamydomonas reinhardtii: Mitochondrial Retrograde Signaling Coordinates the Genes for Cell Proliferation with Energy-Producing Metabolism.
Plant Cell Physiology 52:333-43
2010年
福澤秀哉「微細藻類におけるCO2濃縮機構と物質生産」 学術の動向 15(12):70-71 (2010) [PDF]
Ohnishi N, Mukherjee B, Tsujikawa T, Yanase M, Nakano H, Moroney JV, Fukuzawa H*
Expression of a low-CO2-inducible protein, LCI1, increases inorganic carbon uptake in the green alga Chlamydomonas reinhardtii.
Plant Cell 22:3105-3117 (2010) doi:10.1105/tpc.109.071811
Yamano T, Tsujikawa T, Hatano K, Ozawa S, Takahashi Y, Fukuzawa H*
Light and low-CO2 dependent LCIB/LCIC complex localization in the chloroplast supports the carbon-concentrating mechanism in Chlamydomonas reinhardtii.
Plant Cell Physiology 51:1453-1468 (2010) doi:10.1093/pcp/pcq105
2009年以前の論文については各教員のresearchmapを参照してください。