RESEARCH

研究内容

わたしたちの研究哲学

生命はいかにして自律的に秩序ある化学反応場を形成・維持し、次世代へ継承してきたのか?これが、私たちの研究を貫く問いです。「反応場」とは、必要な分子が集まり、特定の化学反応が進む場所です。分子が集まる仕組みと、その集まりが生命のために働き続ける仕組みを、一つにつなぐことが研究の核心です。

私たちは、微細藻類の「ピレノイド」をモデルに、分子が液滴状に集まる「相分離」に注目しています。水と油が分かれる現象と共通する原理で、膜のない区画「非膜オルガネラ」が生まれます。ただし、安定な状態へ向かう「平衡系」とは異なり、生命の反応場は、原料が入り、生成物が出ていき、エネルギーが使われ続ける「非平衡系」で働きます。

分子を入れ替え、形を変えながら機能を保ち、細胞分裂を越えて受け渡す。「形成・維持・継承」を一続きの過程として捉え、この柔軟性と安定性を支える仕組みを探ります。さらに、どのような環境で反応場が有利になり、いつ失われるのかを問い、細胞の一生から進化の時間へ視野を広げます。分子・機能・環境を結び付け、生命の秩序形成と環境適応に共通する原理に迫ります[1, 2]。

[1]山野 隆志(2023)Plant Morphology 35, 3–8.
[2]Yamano T(2025)Algal Science and Technology 18, 13–25.

研究哲学の概念図

CO2濃縮機構とピレノイド「炭素を集め、動く反応場で使う」

水中の光合成を支える「CO2濃縮機構(CCM)」は、周囲の炭素を取り込み、炭素固定酵素Rubisco(ルビスコ)の近くにCO2を集める仕組みです。藻類では、Rubiscoが相分離で集まる葉緑体内の「ピレノイド」が、炭素固定の反応場を担います。

私たちは、細胞膜のHLA3と葉緑体包膜のLCIAが協調し、重炭酸イオンを細胞外から葉緑体へ運ぶ仕組みを解明しました[3]。さらに、細胞外の炭酸脱水酵素CAH1がCO2と重炭酸イオンの相互変換を促し、水圏における炭素利用を支えることを示しました[4]。

反応場も環境に応じて変化します。葉緑体内の炭酸脱水酵素LCIBがCO2濃度に応じてピレノイド周辺へ再配置され、周囲のデンプンがその配置とCCMを支えることを明らかにしました[5, 6, 7]。さらにライブイメージングと機械学習により、形態異常と分裂時の再構築異常、CO2条件に依存する生育との関連を見いだしました[8]。炭素の流れと反応場の「形・動き・働き」を結び付け、機能を次世代へ受け渡す仕組みに迫ります。

[3]Yamano T et al.(2015)PNAS 112, 7315–7320.
[4]Shimamura D et al.(2024)Plant Physiol 196, 2395–2404.
[5]Yamano T et al.(2010)Plant Cell Physiol 51, 1453–1468.
[6]Toyokawa C et al.(2020)Plant Physiol 182, 1883–1893.
[7]Yamano T et al.(2022)Plant Physiol 188, 1081–1094.
[8]Matsuo K and Yamano T(2026)bioRxiv

CO2濃縮機構とピレノイドの模式図

CCMの制御「必要なときに動かし、不要になれば止める」

炭素を集めるCCMは強力な仕組みですが、その作動にはエネルギーが必要です。CO2が不足するときには働きを高め、十分にあるときには抑えることが、限られたエネルギーを有効に使ううえで重要になります。私たちは、必要なタンパク質を「いつ、どれだけつくるか」を決める遺伝子発現制御から、この切り替えの仕組みを調べています。

葉緑体のタンパク質CASを介した情報伝達が、核にある炭素輸送体の遺伝子発現に必要であることを示しました。ピレノイドの構造に関わるタンパク質SAGA1を失うと、CASの配置と、その下流の遺伝子発現が損なわれることから、ピレノイドの構造と、細胞全体の炭素取り込みを調節する仕組みが結び付いていることを提唱しています[9, 10]。

CCMを抑える側の仕組みとして、核内のタンパク質CBP1を発見しました[11]。CBP1は、CO2が十分にある条件でCCM関連遺伝子の発現を抑えます。さらに、細胞質因子HCR1が、CCMの停止を支える第二の抑制因子であることを見いだしました[12]。核と細胞質という異なる場所で働く抑制因子から、CCMの作動と停止を調節する仕組みが見えてきました[13]。

[9]Wang L et al.(2016)PNAS 113, 12586–12591.
[10]Shimamura D et al.(2023)Photosynth Res 156, 181–192.
[11]Shimamura D et al.(2026)PNAS 123, e2518136123.
[12]Miichi S et al. bioRxiv
[13]Shimamura D and Yamano T(2026)Front Plant Sci 17, 1882169.

CCMの制御の模式図

技術開発「見過ごされていた細胞の違いを、新たな発見につなげる」

小さな形の違いの中に、反応場の仕組みを解く手掛かりが隠れているかもしれません。しかし、多数の細胞から珍しい異常を見つけ、その細胞を取り出して詳しく調べるには、観察・解析・操作の技術を一体で進める必要があります。私たちは、生物学の問いに応えるための技術開発にも取り組んできました。

工学・情報科学等の研究者との共同研究では、顕微鏡画像をその場で解析し、狙った特徴を持つ細胞を生きたまま選び出す、AIを用いた画像認識型の細胞選別技術の開発に参画しました[14, 15]。

また、クラミドモナスの細胞壁を除かずに遺伝子を導入する手法を開発し、遺伝子の働きを調べる実験基盤を整えてきました[16]。これらの技術を、生きた細胞の観察や機械学習による形態解析と組み合わせ、見つけた違いがどの遺伝子や分子の働きに由来するのかを検証していきます。

AIで違いを見つけ、顕微鏡で変化を追い、遺伝子操作で仕組みを確かめる。技術開発を研究の目的から切り離さず、反応場が「どうでき、どう働き、どう調節され、どう受け継がれるか」を追究するための方法として発展させていきます。

[14]Nitta N et al.(2018)Cell 175, 266–276.
[15]Nitta N et al.(2020)Nat Commun 11, 3452.
[16]Yamano T et al.(2013)J Biosci Bioeng 115, 691–694.

技術開発の概念図